「青島と被ってもいい」――還暦を前にした織田裕二、これからが面白い
織田裕二さんが、また面白くなってきた。
そんなことを最近感じています。
1967年生まれの織田裕二さんは現在58歳。来年2027年には60歳、還暦を迎えます。
若い俳優の活躍を見るのも楽しいですが、「この人は60代になったら、どんな俳優になるのだろう」と気になるベテラン俳優の役作りの変化も見ていて楽しいです。
そして織田裕二さんはそんな期待ができる俳優の一人で、これからの10年が非常に面白く期待できるのではないかと思うようになりました。
織田裕二といえば、やはり青島俊作
40代から60代世代に「織田裕二といえば?」と聞けば、かなりの人が『踊る大捜査線』の青島俊作を思い浮かべるでしょう。
緑色のコートを着て、現場を走り回る。
組織の論理より、自分の目の前で起きていることを信じる。
決して完璧な刑事ではないけれど、妙に人間臭い。
織田裕二さんと青島俊作は、それほど強く結びついてしまいました。
俳優にとって、これほどの当たり役を持つことは幸せなことでしょう。
しかし一方では、難しいことなのかもしれません。
渥美清さんから「寅さん」を取り除けるだろうか
そこで思い出したのが渥美清さんです。
もちろん渥美さんは『男はつらいよ』以外にも多くの作品に出演した名優です。
しかし、私たちの記憶の中では、
「渥美清=車寅次郎」
ではないでしょうか。
寅さんを演じている渥美清さんなのか、渥美清さん自身が寅さんなのか。
その境界さえ分からなくなるほど、役者と役が一体になっていました。
国民的な役を手に入れた俳優の幸福であると同時に、一人の役者として考えれば、それは大変なことだったのではないでしょうか。
実は織田裕二さん自身も、この問題を意識していたことが分かります。
2012年、『踊る大捜査線 THE FINAL 新たなる希望』でシリーズがいったん完結した後のインタビューで、織田さんは自分を「ゼロ」と表現しました。
そして、刑事コロンボやスーパーマンを演じた俳優が一つのキャラクターのイメージで見られるようになったことに触れながら、自分は「また新しいキャラクターを生み出したい」と語っています。
青島俊作という巨大な役を演じ切った。
ならば、もう一度ゼロから始めよう。
45歳だった織田裕二さんは、そう考えていたのでしょう。
しかし、青島以上の青島を作ることは難しい
それから十数年。
織田裕二さんはもちろん、さまざまな作品に出演しています。
しかし、私のような世代にとって「織田裕二」と聞いて真っ先に浮かぶのは、やはり青島です。
これは本人の演技力の問題ではありません。
それほど青島俊作というキャラクターが大きかったのだと思います。
考えてみれば、渥美清さんに「寅さんを超える役を作ってください」と要求するようなものです。
そんなことをする必要があるのでしょうか。
私は最近、むしろ逆ではないかと思うようになりました。
そこまで愛される役を一つ持てたこと自体が、俳優としてものすごい財産なのではないでしょうか。
そして面白いことに、現在の織田裕二さん自身も、そんな境地に近づいているように感じます。
2026年、「青島と被っちゃってもいい」
2026年6月、織田さんはテレビ朝日の『ダブルエッジ~甦った男』で主演しました。
演じたのは元捜査一課の刑事・郡司孝介。
しかも車椅子で生活する刑事です。
走る織田裕二。
走る青島俊作。
そんなイメージを持つ私たちからすると、「走れない織田裕二」という設定自体が面白い。
織田さんも、この制約のある刑事役だからこそ「新しいものができるんじゃないかな」と感じ、出演を引き受けたと話しています。
ところが、もっと興味深い発言があります。
別の刑事を演じれば、当然「青島俊作と比較されるのではないか」と考えます。
若い頃なら、それを嫌ったかもしれません。
しかし58歳の織田裕二さんは違いました。
「無理に青島と切り離そうと意識して演じてない」
そして、
「青島と被っちゃってもいいや」
とまで話しています。
私は、この言葉がとても好きです。
「開き直った」と言ってしまえば、それまでかもしれません。
しかし、私はむしろ「受け入れた」のではないかと思います。
青島俊作は自分の俳優人生から消すことのできない存在。
ならば、無理に消す必要もない。
青島らしく見えるところがあってもいい。
それも含めて現在の織田裕二なのだ。
そんな余裕を感じます。
そして、いかりや長介さんを思い出す
ここでもう一人思い出すのが、いかりや長介さんです。
私たちの世代にとって、いかりや長介さんといえば、まずザ・ドリフターズの「長さん」です。
『8時だョ!全員集合』で、
「オイッス!」
と登場するリーダー。
若い頃から知っている私たちにとっては、完全にコメディアンのイメージでした。
ところが年齢を重ねたいかりやさんは、素晴らしい俳優になりました。
そして『踊る大捜査線』で演じたのが、和久平八郎です。
現場を知り尽くした老刑事。
若い青島に説教をすることもあれば、そっと背中を押すこともある。
あの和久さんには、若い役者には出せない味がありました。
私は今になって思います。
あれは演技力だけではなく、いかりや長介という人間が積み重ねてきた年月そのものが、和久さんという役に重なっていたのではないでしょうか。
今度は青島が「和久さんの年齢」になる
そして、ここからが面白いのです。
2026年、新しい『踊る大捜査線』で青島俊作が帰ってきます。
織田さんは以前から、もし次に青島を演じるなら、
「和久さんの年ぐらいになった時かな」
と考えていたそうです。
そして本当に、その年齢になりました。
かつて青島は若かった。
組織の理屈に納得できず、現場を走り回っていた。
そんな青島を見ながら、和久さんが笑ったり、叱ったり、人生を教えたりしていました。
ところが、その和久さんの位置に、今度は青島が近づいている。
本広克行監督も、新しい作品について、青島は周囲が世代交代していく中で変わらず存在しながら、次へ**「繋いでいく人」**になると語っています。
これは楽しみです。
若い頃の青島を再現する必要などありません。
58歳の青島を見せてほしい。
そして若い刑事たちを見ながら、
「俺も昔はそうだったな」
という顔をする青島を見てみたい。
かつて和久さんから受け取ったものを、今度は青島が次の世代へ渡していく。
それこそ『踊る大捜査線』をもう一度作る意味なのではないでしょうか。
「意気込みは?」に「ないです!」
さらに新作の公式インタビューで面白い場面がありました。
14年ぶりの『踊る』への意気込みを聞かれた織田さん。
答えは、
「ないです!(笑)」
でした。
もちろん、やる気がないという意味ではありません。
むしろ、意気込みすぎないようにしているのだそうです。
「適当な軽さ」があるくらいが青島らしい。
肩に力を入れず、青島に戻ってみる。
この感じもいい。
45歳の頃には「ゼロからスタートして新しいキャラクターを作りたい」と考えていた俳優が、58歳になって「青島と被ってもいい」「意気込みはない」と笑えるようになった。
私は、そこに年齢を重ねることの面白さを感じます。
還暦からの織田裕二を見てみたい
渥美清さんには寅さんがいた。
いかりや長介さんには、長年積み重ねてきた人生があったからこそ演じられた和久さんがいた。
そして織田裕二さんには青島俊作がいる。
それでいいのではないでしょうか。
いや、むしろそこからが面白い。
織田さんは2026年のインタビューで、若い頃は「やっちゃいけないこと」を考えていたけれど、今は、そうでなければ何でも挑戦してみるという趣旨のことも話しています。
還暦を前にして守りに入るのではなく、まだ新しいことをやってみようとしている。
『ダブルエッジ』では「走れない刑事」。
『踊る大捜査線』では「和久さんの年齢になった青島」。
これは、60代の俳優・織田裕二の入口なのかもしれません。
若い頃のように走り続ける必要はありません。
「キターッ!」と叫び続ける必要もない。
青島俊作を超える役を無理に作る必要だってないと思います。
58歳には58歳の織田裕二がいる。
60歳になれば60歳だから演じられる人物がいる。
70歳になれば、もしかすると、いかりや長介さんのように、そこにいるだけで物語を感じさせる俳優になっているかもしれません。
私はそんな織田裕二さんを見てみたい。
そして何年か先、若い俳優の横に立つ織田さんを見ながら、
「昔、青島という走り回る刑事がいてね」
などと私たちが話す日が来るのも悪くありません。
2026年。
青島俊作が帰ってくる年は、昔を懐かしむだけの「復活」ではなく、俳優・織田裕二の新しいスタートになるのかもしれません。
還暦はゴールではありません。
私たち還暦世代にとってもそうですが、織田裕二さんにとっても、ここから先が面白い。
「青島と被っちゃってもいい」
そう笑えるようになった織田裕二さんだからこそ、これからどんな役を見せてくれるのか。
60代の俳優・織田裕二。
大いに期待しながら、応援したいと思います。
