2026年、ミラノ・コルティナ冬季オリンピック。日本のスポーツ史に新たな1ページが刻まれました。スノーボード女子ビッグエアで、村瀬心椛(むらせ ここも)選手が悲願の金メダルを獲得。 日本女子スノーボード史上初となる五輪制覇という快挙です。
しかし、この金メダルへの道のりは、決して平坦なものではありませんでした。10代にして直面した引退の危機、そして競技の枠を超えた「恩人」との出会い。そこには、私たちの想像を絶する驚異の肉体改造がありました。
今回は、村瀬選手を頂点へと導いた「足指」の秘密と、ラグビー界のレジェンド・堀江翔太さんとの絆について深く掘り下げます。
Contents
1. 栄光の影で抱えていた「引退の危機」
2022年、北京五輪。当時17歳だった村瀬選手は、ビッグエアで銅メダルを獲得し、日本女子冬季五輪の最年少メダリストとなりました。天才少女として一躍スターダムにのし上がった彼女でしたが、その裏側では壮絶な膝の痛みと戦っていました。
中学時代に負った大怪我。手術を経て復帰したものの、着地のたびに走る激痛。「いつ膝が壊れてもおかしくない」という恐怖を抱えながら、彼女は滑り続けていたのです。
「滑るのが怖い。練習をするのが怖い。」
当時の村瀬選手は、そんな弱音を吐くほど追い詰められていました。技術は世界一でも、それを支える土台(体)が悲鳴を上げていたのです。
2. 運命を変えた一通のダイレクトメッセージ(DM)
そんな絶望の淵にいた村瀬選手に、手を差し伸べた人物がいます。ラグビー日本代表として長年活躍した「笑わない男」の盟友、堀江翔太さんです。
二人に面識はありませんでした。きっかけは、堀江さんが偶然テレビで村瀬選手のインタビューを目にしたこと。膝の痛みを告白する彼女の姿に、自身も度重なる怪我を乗り越えてきた堀江さんは、放っておけませんでした。
「力になりたい。一度、僕が信頼しているトレーナーに会ってみないか」
面識のない大先輩からの突然のSNSメッセージ。村瀬選手は驚きつつも、その熱意に導かれるように、ある一人の人物のもとを訪ねます。それが、トップアスリートたちの駆け込み寺と呼ばれる佐藤義人(さとう よしひと)トレーナーでした。
3. 「サトトレ」が解き明かした膝痛の真実
佐藤トレーナーの診断は、村瀬選手にとって衝撃的なものでした。
「膝が悪いんじゃない。足の指が死んでいるから、膝に負担がいっているんだ」
スノーボードという競技は、分厚いブーツの中に足を固定します。そのため、多くの選手が足首や足の指を上手く使えず、着地の衝撃をすべて膝だけで受け止めてしまっていました。村瀬選手もその一人だったのです。
ここから、ミラノ五輪での金メダルへ向けた、地道で過酷な「肉体改造」が始まりました。
4. 魔法のトレーニング:すべては「足指」から始まった
村瀬選手が取り組んだトレーニング、通称「サトトレ」は、重いバーベルを上げるような一般的な筋トレではありませんでした。それは、**「眠っている筋肉を目覚めさせ、体を正しくしつける」**という哲学的な練習でした。
① 足指グーパーとアーチの形成
まず徹底したのは、足の指を一本ずつ独立させて動かすことです。 足の裏には、衝撃を吸収するための「アーチ(土踏まず)」があります。村瀬選手は、足指を「グー・チョキ・パー」と動かす地味な訓練を毎日繰り返しました。これにより、ブーツの中でも地面をしっかり「掴む」感覚を養い、着地時の衝撃を足裏全体で逃がせるようになったのです。
② 壁ペタスクワットでの連動性強化
次に、壁の目の前に立ち、つま先を壁につけた状態で深く沈み込む「壁ペタスクワット」を導入しました。 これは、股関節の柔軟性と背骨の連動ができていないと、後ろに転んでしまう難易度の高い種目です。村瀬選手はこのトレーニングを通じて、膝一点に頼るのではなく、股関節から足首までを「一つのバネ」のように連動させる方法を体に叩き込みました。
③ 多裂筋の覚醒
堀江翔太さんも重要視している、脊椎を支える深層筋「多裂筋」。 ここを鍛えることで、空中での軸が驚くほど安定しました。4回転半(1620度)という超高回転の中でも、自分の位置を正確に把握できる「空中の司令塔」を手に入れたのです。
5. 結実した大技:バックサイド・トリプルコーク1620
肉体改造の結果、村瀬選手は「痛みへの恐怖」を克服しました。それどころか、以前よりも高く、鋭く飛べるようになったのです。
そして迎えた2026年ミラノ五輪。彼女が披露したのは、女子スノーボード界の常識を覆す超大技**「バックサイド・トリプルコーク1620」**でした。
- 縦に3回転、横に4回転半
- 重力に逆らうような滞空時間
- 氷のように固いバーンへの完璧な着地
肉体改造によって手に入れた「最強の足指」と「連動する体」が、この不可能と言われた技を現実のものにしました。着地した瞬間、膝の痛みは皆無。そこにあったのは、確信に満ちた笑顔でした。
6. まとめ:競技を超えた「絆」が育んだ金メダル
村瀬心椛選手の金メダルは、彼女自身の才能だけでなく、**「堀江翔太さんという恩人の勇気ある一歩」と「佐藤トレーナーの科学的な導き」**があったからこそ掴み取れたものです。
ラグビーとスノーボード。一見、何の関係もない二つの競技が「怪我を克服し、最高のパフォーマンスを出す」という一点で結ばれました。
「あの時、堀江さんがメッセージをくれなかったら、私は今ここに立っていません。」
表彰台の頂上で語ったこの言葉には、村瀬選手の歩んできた苦難の道のりと、支えてくれた人々への深い感謝が込められています。
21歳にして世界の頂点に立った村瀬心椛。彼女の肉体改造は、多くのアスリート、そして痛みや壁に直面しているすべての人に「正しい努力と出会いの大切さ」を教えてくれています。
【編集後記】
村瀬選手が実践した「足指トレーニング」は、実は一般の方の健康維持や姿勢改善にも非常に効果的だと言われています。私たちも、トップアスリートの知恵を日々の生活に取り入れてみてはいかがでしょうか。
今後の村瀬選手のさらなる飛躍から、目が離せません!