1980年代の芸能界において、宮崎ますみ(旧芸名:宮崎萬純)という存在は独特の輝きを放っていた。清楚さと芯の強さを併せ持ち、ドラマ・映画・CM・歌など幅広く活躍した彼女は、一見すると「アイドル女優」と呼ばれる立ち位置に見えるかもしれない。しかし、彼女の人生はその後、大きな転換をいくつも迎え、精神的な成長の旅へと続いていく。その歩みは、芸能史という枠に収まらず、一人の女性が「自分らしく生きる」ことを追求していくプロセスそのものだと言える。
芸能界デビューのきっかけ
宮崎ますみさんが芸能界入りしたのは1980年代前半。スカウトがきっかけだが、当時からその透明感のある美しさと存在感は注目を集め、1983年に映画『アイコ十六歳』でデビュー。これが彼女の女優人生の第一歩となる。さらに1985年には、多くの人気女優・モデルを輩出してきた「クラリオンガール」に選出され、一気に全国的な知名度を獲得した。同年「危ないよSister」で歌手デビューも果たし、一時期はテレビや雑誌、広告で見ない日はないほどの活躍を見せていた。
転機として知られるのが、1980年代後半に出演した映画『ビー・バップ・ハイスクール』シリーズ。彼女は作品の中で存在感のあるヒロイン像を演じ、従来の“アイドル的なイメージ”にとどまらない女優としての幅を示した。その他にもドラマや映画、写真集など活躍の場を広げ、人気女優としての地位を確固たるものにしていった。

結婚とアメリカ移住、そして2人の息子の母に
人気絶頂の中、宮崎さんは1994年に15歳年上のテレビカメラマンの男性と結婚。これを機にアメリカへ移住し、二人の男児を出産する。長男は1995年、次男は1997年生まれとされる。彼女は芸能活動を控え、当時は母親としての生活に力を注ぎながら、海外での新しい日々を送っていった。
しかし2007年に離婚を経験し、2008年には公表される。離婚について宮崎さんは「感謝の気持ちしかない」と語っており、別れは対立ではなく“人生の役割を終えた関係”として受け止めていることが伺える。元夫とも良好な関係を保っていると語り、精神的成熟の深さを感じさせる。また、息子たちは現在それぞれ独立しており、職業や私生活は非公開だが、宮崎さんは母として遠くから温かく見守っているという。
人生を変えた乳がん
宮崎さんの人生を大きく揺さぶったのが、2005年に公表した乳がんである。自身の体が発するサインと向き合う中で、「心」「潜在意識」「生き方そのもの」と向き合わざるを得なくなったと語る。治療の過程で西洋医学だけではなく、心理療法や代替的アプローチにも興味を持つようになり、その体験が後の活動につながっていく。
特に、「心の傷や思い込みが身体や人生に影響する」という考え方に深く共感し、ヒプノセラピー(催眠療法)を本格的に学び始める。これが後の“第二の人生”の基盤となった。
ヒプノセラピストとしての活動
長年にわたってヒプノセラピーを国内外で学んだ宮崎さんは、やがて講座や養成プログラムを開く立場へ。自身の会社を立ち上げ、ヒプノセラピストとして活動し、多くの人に潜在意識との向き合い方を伝えてきた。
また、インド哲学や精神世界に関する学習も続け、精神的な深まりを求めて旅を続ける中で、インドでは聖なる名前「Shan Matha(シャン・マーター)」を授かる。これは「女性性の強さと調和」を象徴する意味合いを持ち、現代社会で悩みを抱える女性たちの癒しに携わってきた彼女の生き方にも重なる。
八ヶ岳移住 ─ 自然と共に生きる
2019年末、宮崎さんは八ヶ岳山麓へ移住する。場所は長野県茅野市近辺の自然豊かな地域で、ログハウスを拠点に生活している。
移住の理由は「自然とともに生き、静けさの中で自分自身と深く向き合いたい」という思いからだった。八ヶ岳での生活は、早朝に白湯を飲み、ヨガや呼吸法を行い、農作業や執筆、講座準備をするというもの。毎日が大きな刺激に満ちているというより、自然のリズムに身を委ねる穏やかな時間で満たされている。

彼女は約1反の田んぼを借り、完全オーガニックでの米づくりを手作業で行う。田植えも稲刈りも、友人や、時に障がいのある子どもたちと共に行うという。八ヶ岳での暮らしは「生きている実感に満ちている」と語り、夜はベランダで星や月を眺めながらゆったり時間を過ごしている。
最近の活動
現在の宮崎さんは、芸能活動は最小限で、CM出演など限定的な仕事に絞っている。一方で、ヒプノセラピーの講座や心の学びの場を八ヶ岳で定期的に開催。特に毎月第1土日に行われるワークショップは、心身の浄化や潜在意識との対話をテーマに、全国から参加者が訪れる人気企画となっている。
また、八ヶ岳のログハウスを拠点に、精神性や自然との調和についての執筆活動も続けている。近年は「自分たちの力で生きるコミュニティを作りたい」というビジョンも語っており、自然と精神性のバランスを軸とした生き方を広げようとしている。
宮崎ますみさんは、アイドル的な人気女優としての成功を経て、乳がん・離婚・母としての葛藤などを乗り越え、今は八ヶ岳の自然の中で、心の世界を探究する一人の女性として生きている。その人生は、華やかさと静けさ、試練と癒し、外側からの価値と内側からの光──そのすべてが折り重なった独自の物語である。
