渋みと遊び心で魅了する名バイプレイヤー 名高達男の軌跡


 俳優・名高達男の名を聞いて、まず思い浮かべるのは、その端正な顔立ちと、年輪を重ねたからこそ滲み出る渋みではないでしょうか。若かりし頃は甘いマスクで多くの女性を虜にし、今もなお、飄々とした雰囲気の中に確かな存在感を放ち続けています。しかし、その俳優人生は、決して順風満帆なものではありませんでした。一つの出会いをきっかけに役者の道を歩み始め、若くしてスターダムにのし上がり、そしてベテランとなった今もなお、第一線で活躍し続ける彼の軌跡を紐解いていきます。

俳優の道を拓いた、人生を変える出会い

 名高達男、本名・名高 宏。広島県広島市に生まれた彼は、もともと俳優を目指していたわけではありませんでした。高校時代は柔道に打ち込み、卒業後は実家の印刷業を継ぐために上京。印刷会社で働きながら、俳優養成所などに通うこともなく、ごく普通の青年時代を過ごしていました。そんな彼の運命を変えたのが、俳優の北大路欣也との出会いです。
 たまたま友人の紹介で北大路欣也と知り合った名高は、彼から「一度、ドラマの現場に来てみないか」と誘われます。軽い気持ちで撮影現場を見学に行った名高は、そこで演技という表現の世界に魅了され、俳優になることを決意しました。この運命的な出会いこそが、俳優・名高達男の原点と言えるでしょう。

わずか2年で主演級へ、『太陽にほえろ!』で全国区の人気に

 俳優としてのキャリアは、意外なほど早く花開きます。北大路欣也の紹介で芸能事務所に入り、1976年にドラマ『太陽にほえろ!』のゲスト出演でデビューを飾った名高は、そのわずか2年後の1978年には、再び同作にレギュラー刑事「デューク」こと西條昭役で抜擢されました。
 この「デューク刑事」は、彼のキャリアを語る上で欠かすことのできない重要な役どころです。端正なルックスに加えて、落ち着いた物腰とスマートな捜査スタイルは、当時の若者たちの憧れの的となりました。また、その優雅な雰囲気を活かし、当時は刑事ドラマでは珍しかったスーツを着用して捜査にあたるという設定も、デューク刑事を印象的なキャラクターにしました。
 その後も、ドラマ『特捜最前線』(1977年~1987年)や、映画『セーラー服と機関銃』(1981年)など、数々の話題作に出演し、若手俳優のトップランナーとして活躍を続けました。特に、映画『セーラー服と機関銃』では、薬師丸ひろ子演じる主人公を支える心優しいヤクザ・政を演じ、その存在感を示しました。

演技の幅を広げ、人生経験を味方につけるベテラン俳優へ

 40代、50代と年齢を重ねるにつれて、名高達男の俳優としての魅力はさらに増していきます。若手時代にはヒーロー的な役柄が多かったものの、年齢を重ねるにつれて、人間味あふれる上司、頼りになる父親、一癖も二癖もある悪役など、幅広い役柄を自然体で演じ分けるようになりました。
 その秘訣は、役柄に自分自身を重ねすぎず、客観的に役を捉える力にあるのかもしれません。プライベートでは明るくユーモア溢れる名高ですが、芝居においては役柄と真摯に向き合い、その人物が持つ深みや葛藤を丁寧に表現します。必ずしも“演技派”とは言えないかもしれませんが、長年のキャリアで培われた経験と、常に新しい役に挑戦し続ける探究心の賜物と言えるでしょう。
 近年では、ドラマ『下町ロケット』(2015年)で悪徳弁護士を演じ、その冷徹な演技で視聴者を震え上がらせました。また、バラエティ番組では、飄々としたキャラクターで共演者を楽しませるなど、俳優としての顔とはまた違った一面も見せています。そのギャップも、名高達男が長年愛され続けている理由の一つです。

北野武監督の映画『アウトレイジ』シリーズの存在感

北野監督が名高達男を起用した理由

意外性とギャップの創出:

 名高達男さんは、これまでのキャリアで、端正な顔立ちとスマートな雰囲気から、刑事や紳士的な役柄を多く演じてきました。しかし、『アウトレイジ』シリーズでは、そのイメージを覆すような、一見すると温厚でありながら、底知れない不気味さと狡猾さを併せ持つヤクザの会長という役柄を演じています。
 この「意外なキャスティング」こそ、北野監督が名高さんに期待した最も大きな点ではないでしょうか。名高さんの持つパブリックイメージと、役柄とのギャップが、作品に深みと面白さを与えています。

独特の存在感と「顔芸」:

 シリーズ終盤、山王会会長として君臨する加藤は、座っているだけで周囲を威圧するような、圧倒的な存在感が求められます。長年のキャリアで培われた名高さんの風格や、セリフがなくとも表情で語る演技力は、この役柄に説得力をもたらしました。
 特に、顔のアップで映し出される際の表情の演技は「顔芸」と評されるほどのインパクトがあり、監督が意図したであろう「滑稽で哀れなヤクザたち」というテーマを、体現する存在だったと言えるでしょう。

撮影後の評価

監督のキャスティングへの自信:


 北野監督は、自身の作品においてキャスティングが7割を占めると考えることがあるとされており、その言葉通り、名高さんの起用も監督の狙い通りに機能したと考えられます。
 特に『アウトレイジ』シリーズでは、主演のビートたけし以外はほとんどが北野作品初出演の俳優たちで固められており、監督は「このクラスの役者さんになると、みなさんすごいなと思うくらい、ほとんど問題がない。上がりも思ったように上がった」と、キャスト全員の演技に満足していたと伝えられています。

独特の演出方法との親和性:

 北野監督の現場は、事前のリハーサルが少なく、一発本番を重んじる独特のスタイルで知られています。
 長年、第一線で活躍し続けている名高さんのようなベテラン俳優は、瞬時の判断力や対応力が高く、監督の求める「一発勝負」の演技にも見事に応えることができたと考えられます。これにより、名高さんは監督の期待に見事に応え、作品の世界観を深めることに貢献したと言えるでしょう。
 このように、北野監督は、名高さんの持つ俳優としてのイメージと、ヤクザの会長という役柄とのギャップ、そして長年のキャリアで培われた演技力を高く評価し、彼をキャスティングしたと考えられます。そして、その期待は撮影現場で現実のものとなり、作品の成功に繋がったと言えるでしょう。

芸名の変移はあるが、プライベートは明かさず、役者一本主義

 名高達男さんは、これまでに何度か芸名を変更しています。その変遷は以下の通りです。

名高 達朗(なだか たつろう):モデルとして芸能界デビューした当初の芸名です。
名高 達郎(なだか たつろう):俳優として活動し始めた時期に使用していた芸名です。
名高 達男(なだか たつお):現在の芸名です。1994年に、俳優の美輪明宏さんの勧めで改名しました。

 このように、活動初期は「達朗」や「達郎」といった名前を使っていましたが、1994年以降は現在の「達男」で活動を続けています。

 また、1986年にタレントの西尾かおるさんとの婚約を解消したことが、当時のメディアで大きく報じられました。Wikipediaなどでも、この件について触れられています。
 しかし、婚約解消の具体的な理由については、名高さんご本人の口から公式に語られたことはなく、諸説あるとされています。
 その後、名高さんは1994年に一般女性と結婚されていますが、プライベートなことは明かさず、役者として評価してほしいという名高さんの心意気が感じられます。

今後の活躍に期待される、唯一無二の存在感

 若手からベテランまで、多くの俳優がひしめく芸能界において、名高達男が今もなお必要とされ続けているのは、彼にしか出せない唯一無二の存在感があるからです。品格のある立ち居振る舞いや、穏やかながらも芯のある演技は、作品に深みを与えます。

 今後も、名高達男は様々な役柄に挑戦し、私たちを驚かせ、楽しませてくれることでしょう。年輪を重ねた渋みと、遊び心を忘れない若々しさ、その両方を併せ持つ彼の演技は、これからも多くの人々に感動を与え続けるに違いありません。

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